日本の杉


  日本のスギ科 Taxodiaceae は,スギとコウヤマキがある。コウヤマキ属は日本特産で,スギ属は準特産である。特にコウヤマキ属は1属1種で,学者によっては1科をたてるほど特異な針葉樹であり,かって新生代第三紀の末まではヨーロッパにも生存していたものが,日本にだけ生き残っている。
 スギ属のスギ Cryptomeria japonica D.Don は,ヨシノスギ,オモテスギともいい,わたしたちのよく知るところでは屋久島の屋久杉が
このスギにあたる。その他のオモテスギでは,
奈良県の吉野杉,高知県,徳島県にまたがる魚
梁瀬杉,千葉県の山武杉,宮崎県の飫肥杉がある。
  中井猛之進先生は,スギよりスギの変種であるアシウスギ Cryptomeria japonica D.Donvar.radicans Nakai を別けられた。アシウスギは,ウラスギともいい,わたしたちのよく知
る秋田杉がこのスギにあたる。その他のウラス
ギをあげれば,富山県の立山杉,岐阜県の石徹
白杉,兵庫県の宍粟杉,鳥取県の沖ノ山杉がある。
  葉の色は,屋久杉が淡緑色で秋田杉が濃緑色である。樹冠の形状は,秋田杉では尖鋭で樹冠幅が狭いが,屋久杉は傘形でうまく光を確保できるようになっている。心材を比較すると,秋田杉は紅色なものが多く,屋久杉は黒色に近いものが多い。最も大きな違いは積雪に対する適応であり,秋田杉は葉をさわると柔らかくしなやかなのに対して屋久杉は硬く手に刺さる。
  スギの本来の姿は,屋久杉ではモミ・ツガ・イスノキ・カシ類などと針広混生林をなし,秋田杉では低山の尾根すじに群生し,温帯の下部に達してブナと混生する。

 スギ科の誕生と消滅

   1945 年,中国四川省の揚子江支流,磨刀渓の奥地で,すでに絶滅しただろうと考えられていたメタセコイアが発見された。メタセコイアは,昭和 16 年に三木茂先生が岐阜県の第三紀粘土層にセコイアに似た球果を発見し,新しい属としてメタセコイアと命名したものである。  セコイアなどの古いスギ科の属は,中生代白亜紀に出現している。第三紀には,古いスギ科の一群は,北半球の高緯度地帯で第三紀周北植物群を構成していた。
  第三紀が終わろうとする鮮新世になって,スギ科のスギ属が現れる。日本列島はといえば,山崎次男先生の報告では,山形県の鮮新世下部の清水亜炭層からスギ科5属とともに少数のスギの花粉を検出している。第三紀鮮新世には,スギ科9属のすべての属が出揃い,このあたりから地球の寒冷化が始まりだす。そしてスギ科の樹木の多くが地球上から姿を消してゆく。氷床の発達によって特にも寒冷化が深刻だったヨーロッパでは,すべてのスギ科が姿を消してしまう。日本列島はといえば,竹岡政治先生の報告では,大分県向野の第三紀鮮新世亜炭層の上層でセコイア属の消滅を確認し,大分県九重町の第四紀洪積世亜炭層においてスギ科スギ属を除くほかの4属の消滅を確認している。
  現在地球上にはスギ科は9属あり,そのうち8属が北半球に孤立分布している。日本にはスギ科のスギ属が1属現存する。